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忘れはしない時と唄

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【小説】夢術師の夢 第三章 ド・ランダ 

5



「ラカルさん! どうしたんですか!?」
 イノとリンロットのもとまで歩み寄ってきたラカルは、何も言い置かずイノの腕をとって踵を返した。今、イノはラカルに腕を引っ張られている格好となる。
 ラカルの歩幅とイノの歩幅は背丈でもたやすくわかるように、大きな差が出てくる。彼にとっての早足は、イノには小走りとなってしまう。
 店先の木箱や、道すがら立っている人ビトに時折ぶつかりそうになりながらも、イノはラカルの手をふりほどかず必死についていった。だけど。
「ラカルさん! ちょっと……ちょっと待ってください!」
 ラカルの背に叫ぶと、ようやっと耳に届いたのか立ち止まった。あまりにも急だったため、イノはたたらを踏んでラカルの背に顔面を打ち付けてしまった。
「なんだ」
 振り返ったラカルは、あからさまに不機嫌な表情でイノを見下ろしてくる。少し息が上がっているようにも見えた。
 イノはそんなラカルの態度への苛立ちよりも、今の衝撃の痛みの方が強く。
 涙目で鼻をさすりながら、
「どこに行くんですか? リンロットさんに何も言わずに来てしまって……何をそんなに急いでいるんですか?」
 そこまで言い終えて、イノはまさかと嫌な想像が脳裏をよぎった。
 リンロットが危惧していた、夢から目覚めない人。そして、その人物にド・ランダをしたキャナのこと。
 もしかして、キャナさんに何か――?
「早くしないと……」
「何があったんですか!? まさか誰かが――」
「日が昇る」
 ラカルの言葉に、イノはほんの少し時が止まってしまった。
 ヒガ、ノボル?
 頭がその言葉を理解したので、イノは視線を海へと移した。確かに、先ほどよりも明るみが増してきている。
 日が昇るのは自然の道理だ。それが何故、ラカルを急き立てる理由となるのか分からない。
 首を傾げて、イノはたっぷりと訝しんだ顔を作ってラカルに見せつけた。
 ラカルは小さく吐息を吐く。拳を作った右手を額にあて、何やら思案する時が流れ、
「いきなり悪かったな。ただ、今ここで説明している時間はない。今は俺についてきてくれ」
 その言葉を受けたイノは、軽く肩をすかしてみせた。そうして、大きく頷く。
 ラカルはイノの手を取った。足取りは先ほどよりもゆるやかになり、引く手の力も優しく弱まった。
 腕と違って直にラカルの温もりが伝わってくる。自分の小さな手がすっぽりと収まってしまうほど、彼の手は大きかった。

 行き着いた場所は、沖へと真っ直ぐに伸びた防波堤の先。
 視界には何も遮る物がなく、停泊していた船たちも多くが出立してしまったのか、陽の光を背に今は小さな影と化している。
 イノの目の前に広がる景色は、感動と喜び。そして温かさを与えてくれた。
「わぁ……」
 空には薄く柔らかな絹の布を広げたような雲が広がり、雲の合間から青空が見える。
 地平線の向こうから大きな橙色の力強い光が溢れだし、その鮮やかな色は雲と海の色さえも染めてしまう。
 目が痛くなるほどの、神々しい朝焼け。
「間に合ったか」
 ぽそりとこぼしたラカルの言葉を聞き逃さなかった。ラカルはこの景色をイノに見せたかったのだ。そう思うと、胸が熱くなった。
「あの、どうしてここに?」
 訊ねると、ラカルは無言でその場に座り込んでしまった。イノもラカルの横に並んで座る。朝焼けの光を受けたラカルの頬は、ほんのりと赤みをさしていた。
「この場所が一番、朝焼けが綺麗だと言う奴がいたからな」
「本当にとっても綺麗ですね。私、こんなに素敵な朝焼けを見たの初めてです」
 にこりとラカルに笑ってみせた。ラカルは鼻息ひとつ吐いてそっぽ向いてしまった。

 しばらくの間、防波堤に打ち寄せる波の音を聞きながら、イノとラカルは無言で朝焼けを眺めていた。
 白い海鳥が一羽、二人の傍に降り立ったと同時に、
「……イドの死因は何だったんだ?」
 ラカルの切れ長の瞳が、こちらをじっと見つめていた。イノは無意識に服の上から胸に手を添える。
 こちらに来てから、誰にも聞かれなかったこと。それは気遣いからなのか、それとも夢術師の繋がりで皆知っていたからなのか疑問だった。
 ラカルの質問で、イノはようやっと前者であったのだと理解する。

「過労死、と聞いています」
 頬を撫でる風は、先ほどよりも温かみをはらんでいた。
 イノは舞い上がる栗色の髪を手で押さえつけながら、海面に反射する朝焼けの空を眺めた。ぎゅっと喉の奥がつまる。
「イドじいちゃんは、夢術師であることに誇りを持っていました。昔から常に忙しそうで……。私が十三を迎えてからは、何日も家を空けることが多かったです」
 イノが生まれ育ったルバー村では、十三歳から大人と同様の扱いをされる。イドもそれを踏まえた上での行動だったのだろう。
「いつも戻ってきた日はひどく疲れた顔をしていました。でも、必要とされる内はこの身を削ることになろうとも、死力を尽くしたいと言って……。今年で七十を迎えているのに、本当無理ばっかりして」
 あんなにも世界を駆け巡っていれば、いつか倒れるのは目に見えていた。そうして、それは現実となった。
 止められたかもしれない、イドの死。何故もっと食い下がらなかったのか、今でも後悔し続けている。
 ぎゅっと唇を噛み、涙をこらえる。朝焼けが目に眩しくて、今にも涙がこぼれ落ちそうだ。
「俺は過労死だとは思えんな」
「え?」
 思わず振り返る。ラカルはイノの方とは反対方向を見つめていた。風で前髪が後ろに流れ、綺麗な額があらわになっている。
「イドは気力も体力も、普通の奴の倍はあっただろう。過労死こそ、イドには似合わん言葉だ。それよりも気にかかる話をバームから聞いた」
「バームさん?」
「イドは前回の定例集会で、一つの依頼を受けている。依頼主が集会に転がり込んできたらしい」
 それ以来ふつりと連絡が途絶えてしまった。いつもなら「容易い依頼だった」と得意げに鼻を鳴らしつつ報告しに来るというのに。
 次にバームの耳に届いたのは、イドの訃報となってしまった。
「もしかするとイドの死は、その依頼に何か関わりがあるんじゃないかと疑っていた。気にかかるのは、イドと共に向かった三人の行方がわからないことと、行き先のグロー島は無人だったということだ」
 それは確かに妙である。イノも小さく頷いた。
「イドはどうやってルバー村まで戻ってきたんだ?」
「船に乗り合わせていた同じ村の人が気が付いてくれたんです。途中の港から乗り込んで、客席の端で座り込んでいるイドじいちゃんを見つけて――」
 声をかけても反応がなかったんだ。男は残念そうに首を振ってイノに伝えた。イノの家から二つ隣のご近所さんだった。
「きっと村に帰るつもりだっただろうからと、気を利かせて連れ帰ってくれたんです。本当に、眠っているような顔をしていて……」
 やっと忙しい日々から解放されたかのような、穏やかな顔だった。
 村から一番近い町医者は、おそらく過労死だろうと診断を下した。だから、イノは心当たりもあったためにそれを鵜呑みにしていたのだ。
「でも、確かに気になります。きっとそれが、イドじいちゃんの最後の仕事だったんですよね?」
「たぶんな」
 海鳥が飛び立った後、ラカルはひとつ吐息をはいた。


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カテゴリ: 長編

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コメント

手をつなぎたい……っ

軽く妄想入りました、kazuです。どもです♪
自分の手がすっぽりと包まれてしまうほど、大きなラカルさまの手。
ちょ、chachaさん。やばいです。私的ツボです←!
ドキがムネムネですっ(笑
シリアスページに変なコメント、すみません!

ラカルさま、イノちゃんからイドじいちゃんの最後を聞く為に、連れ出したんですね。
少しでも心を癒せるように、朝焼けが一番綺麗な場所を選んで。
プロローグを思い出しながら、ラカルさまとイノちゃんの話しを聞いて。
謎が謎呼ぶ状態で、ドキドキしています。
イドじいちゃんと別かれた三人も、グロー村で眠りについていた人たちも行く方知れず……。

続き、まってますっ!

kazu osino #7av6LuR2 | URL【2011/10/29 20:55】edit

ら、ラカルさまと二人っきり・・・
そして防波堤で朝日・・・v
はっ、いけないいけない(笑)
ええ、一気に読ませていただきました。
キャナさーん、無事であってほしいです。ほったらかし~(←
むむ、イドじいちゃんの死因は老衰かと思っていたのですが・・・やはり、何かありそうですね。怪しい匂いがします!新・プロローグからしてやっぱり話の重要な鍵を握ってるんでしょうか・・・?
続きも楽しみにしております!イラストの件、了解しました~でもアモーガスさんは難しいのでごにょごにょごにょ・・・
ではでは~

茉莉 #USanPCEI | URL【2011/10/29 21:47】edit

落ち着け私、ドキドキしてる場合か!
とか言いながら読み終えてため息。
皆様も同じような反応で安心しました。

修正プロローグも改めて読ませていただきました。
今読み返すと意味深な事件で続きが気になって夜も眠れません。
すみません、嘘でした。ぐっすり寝てますw

続き楽しみにお待ちしております~!

こたつ猫 #oPL.xBuk | URL【2011/10/30 02:17】edit

>kazuさん♪

本当、私はこういう甘い感じの描写が苦手なもんで…(笑)
精一杯のシーンでした^^;
kazuさんに教えてもらいたいっ!あのドキドキ、胸キュンな描写をっ!(笑)

ラカル。
ちょっと前までは一体何考えてるんだかわからず、イノがいらいらしていましたけれど。
ここに連れてきたかったようです^^
最初っから言ってくれればいいものを…不器用人間ですので(笑)

今回はプロローグのエピソードと、ちょっとしたリンクを。
詳細はイノたちは知りませんので、謎に謎をかけるような形となってしまいましたが@@;
さて。どうなるんだか。←
三章は長くなりそうだなぁ~(遠い目

いつもありがとうございます^^

chacha #- | URL【2011/10/31 12:34】edit

>茉莉さん♪

ラカルとイノ。実は初の二人っきりなのです♪
あ、初対面の時にちょっとだけ二人きりだったか…
じゃあ、二度目の二人きりシーンです♪←
ちょこっとだけ甘い時間をお二人に…的な、作者のおせっかいが生み出した場面なんですけれど(笑)

そうそう、キャナは本当に大丈夫なのか?ほったらかしじゃないか!(おまぃだろ
もうちょっとだけ、うずうずしつつお待ちください^^
イドの死。怪しい香りが漂ってます。えぇ。
改めて、プロローグ書き直して良かった~(笑)伏線があるほうが面白いですもんね^^;

イラストの件、ありがとうございます!!
アモーガスは確かに難しい(笑)ので、全然構いませんよ~★
楽しみにしていますっ!^^

chacha #- | URL【2011/10/31 12:40】edit

>こたつ猫さん♪

いや~ん^^
ドキドキありがとうございます♪私、こういった描写はとことん苦手なもんで~(笑)
とっても嬉しいお言葉なのです★

改訂版のプロローグ。再読をありがとうございます^^
実はあの部分こそヒントが隠されていたりもするんですが…さてさて♪
といいますか、ぐっすり眠れてて良かった良かった!(笑)
手の届く範囲にいたならば、すかさず
「なんやそれ( °Д°)ノΣ バシッ!!」
とツッコミを入れているところです。えぇ。←

いつもありがとうございます~^^

chacha #- | URL【2011/10/31 12:47】edit

できましたよ~

http://pixiv.cc/marchenheart/archives/472216.html
こんな感じで良かったかしら・・・
ちょっぶっとんだ感じの絵になってしまいましたが・・・ドキドキ
良かったらどうぞです~^^

茉莉 #USanPCEI | URL【2011/10/31 17:12】edit

あら、意外とロマンチストなところもあるんですね
正直、ラカルを素敵な人だなと思いました(・ω・*

過労死、とても都合の良い言葉ですね
その人は最後まで真摯な人だった…
なんて偽りの同情を向けるフリをして
直接の死因をぼかす時とかに…

とはいえ、70歳にもなって現役だなんて
逆によく過労死しなかったなと思いました
普通、70にもなって徹夜でもこなしたら
ばたんと倒れても不思議ではありませんのにね
私なぞ、一日徹夜しただけで翌朝ボロボロなのに…

イドじいちゃん、改めてすごい人だと
つくづく思う一節でした(-ω-

sun #iBQcsk6M | URL【2011/10/31 17:38】edit

>茉莉さん♪

早速持ち帰りましたよ~!!
もう本当に嬉しいのです!サイッコーに素敵でした★
ひとまず頂き物として記事にして…
TOP(目次)にも貼って、プロローグにも貼りました(どんだけ。笑
やっぱり茉莉さんのイラスト、私好きです!!><
本当にありがとうございました~!!!
今日は感動して何度も見返しちゃうだろうな♪うぷぷっ←

chacha #- | URL【2011/10/31 22:39】edit

>sunさん♪

意外や意外。
ラカル、こんな面も持ち合わせていたんです^^
言葉で伝えることが苦手なタイプらしく…結局不器用人間なんです、えぇ(笑)

イドの死因。
過労死なんてやっぱり都合のいいもので。
でも、大丈夫です。なんか臭うぞ…的な流れになってきましたので、きっとイノたちが嗅ぎまわることになる…のか?(え

でも確かに。70で現役はかなりすごい。
役者だとまずまずいるのかな?
夢術師なんて昼夜逆転してる仕事なだけに、なかなか出来るもんじゃないですよね^^;
イドがすごいのか、作者の設定が甘いのか…
うん、前者でお願いします!(笑)

chacha #- | URL【2011/10/31 22:48】edit

んまっ(@∇@)!!!

ラカルったら~~~!!
まだまだ、奥深い性格が読み切れません(笑
手をつないで、二人で朝焼け♪なんて、ロマンチックな~っていう場面で。

会話の内容はイドじいちゃんのことなのねv-388
うむぅ。
舞台が整わないと、まともな会話ができないのかな、彼は(^^;)

それにしても!!プロローグのなぞの部分が一つずつ明らかになっていきますね。
他の三人。眠ったまま、なのですね、きっと。イドじいちゃんと同じで。
それに、島が無人、というのも気になるっ!!
島に…乗り込む!?乗り込んじゃうのかなぁ~(←かなり期待!!)

いろいろと楽しみが増えていきます♪
置いてけぼりのリンロットは、私がカフェに誘うとします♪

らんらら #- | URL【2011/11/01 12:56】edit

>らんららさん♪

んま~~!なのです(笑)
ラカル、結局のところ何がしたいんだかなかなか掴めない感じです^^;
手を繋いで朝日を見に行けば、特にロマンチックなことがあるわけでもなく(笑)
私がイノだったらヤキモキしてるだろうな~なんて…(張本人が何を言うか

これから少しずつ色んなことが起こってきます♪
動き出すと筆も進む~^^
でも、伏線回収忘れないようにしなきゃ!むん!
イノたちもきっと。色々と行動しなきゃいけなくなるので…今はムフフと言っておきます(笑)

リンロット!置いてけぼり~^^
えぇ、らんららさん♪是非ともカフェに誘ってあげてください★

chacha #- | URL【2011/11/01 21:54】edit

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