忘れはしない時と唄

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【小説】夢術師の夢 第三章 ド・ランダ 

4



 リンロットが案内した場所は、先ほどの店と目と鼻の先にある露店だった。
 軒先では色鮮やかな果物が並び、隅には串に刺さった果物に何やら甘い匂いのする液体をかけた菓子的な物が壺に何本も立てられていた。
「さっきのところで結構食べてたみたいだから、口直しにどうかな?」
 店主から串刺しの果物を二本受け取り、リンロットは微笑みながらイノへ一本差し出してくる。

 ふわりと風が海の匂いをはらんで後方から吹いてきた。
 イノの栗色の髪が舞い上がり、頬をくすぐる。
 差し出された果物を受け取る時、リンロットの指が触れた。驚くほど冷えていた。
 振り返れば、薄くなった朝霧の向こう、海の彼方がじんわりと白み始めてきていた。もうしばらくすれば日が昇るのだろう。
「ラカルのことが気になる?」
 問われてリンロットの方に向き直れば、いつもの笑顔がそこにいて。果物には口もつけず、風に流れる銀髪をそのままにイノを真っ直ぐに見つめてくる。
 イノはきゅっと胸が苦しくなった。
 それはラカルに何も言わず店を出てきてしまったことが心残りだったからで。きっとアモーガスが伝えてくれるのだろうけれど。
 ラカルだって私に何も言わずどっかに行ってしまったのだし。これでおあいこだ、なんて無理に自分を納得させた。
 イノは首を横に振ってみせ、
「あの、アモーガスさんがキャナさんのことを心配されてましたけど……」と気になっていたことをリンロットに訊ねてみた。

「ラカルが今朝、『キャナはやっかいな仕事だったから』って言ってたの、覚えてる?」
 傍にあった空箱に腰を下ろしたリンロットにならい、イノも転がっていた空樽を引っ張り起こして座った。はいと答えると、彼は柔らかく微笑んで続けた。
「まだ、ボクらの間でもよくわかっていないんだけど。近頃増えているんだ、『夢から目覚めない人』からの依頼」
「夢から、目覚めない人……?」
「イノは夢術師じゃないから、順を追って説明するとね――」
 美しい形をした唇から発される言葉は、イノの背中をぞくりとさせるものだった。

 夢術師は元来、神から与えられた力を持つ者として人々から崇められてきた。
 人の悪夢を取り除くために夢術師が行うのは、眠っている者の夢に介入する――そう、言葉通り夢の中へと意識のみ入り込むのだ。
 眠っている者の身体に触れ、呼気を合わせ、同じように眠る。すると、夢術師の力が備わった者ならば誰しも他人の夢に入ることが出来る。
 入るだけなら簡単で。
 そこからは訓練や経験を重ねていかなければ、自分の意思で夢から出ることが出来なくなる。

「ボクは最初に話した通り、まだまだ未熟者だからね。補佐しか務めたことがないんだけれど」
 夢術師がド・ランダを行うには、最低でも二人必要となる。
 夢に入り込んでいる者が危なくなった場合――例えば、夢から出られなくなった時など――最終手段として無理やり双方を起こす為だ。
 だが、これは荒療治だ。
 下手すると意識のみが夢に留まってしまい、目覚めても虚(うろ)となり、廃人となってしまう可能性がある。

「有り難いことに、ボクはまだそういった事案に出会ったことはないんだけど。でも、近頃の依頼は今までにない危険を伴うことは確かなんだ。だって、元々目覚めない人の夢に入るんだから」

 夢術師が夢に入って行うことは、その者の悪夢の根源を突き止めること。夢は様々に形を変え、見ている者を苦しめる。だが、それが唯一の答えでもあるのだ。
 何か恐ろしいモノに追いかけられていれば、その《モノ》が何であるのかを調べ。
 場所や風景に恐怖を感じていれば、その場所を見て歩き、記憶する。
 そして、目覚めた依頼主に話して聞かせるのだ。
 何も夢の中で特別な力を使ってそれらを退治するのではない。
 依頼人より冷静に、そしてより鮮明に夢の中を調べ、記憶することによって、依頼主に隠されている《悪夢となる根源》を話し合いによって導き出す。
 結局のところ、悪夢というのは最終的には自分で解決しなければならないことなのだ。

「夢術師というのは名ばかりで、何かを操ったりする力はないんだ。単に人の夢に入って、どんな夢であったか話して聞かせて。きっとこれが原因だろう、いや、あれがいけないのかと話し合って解決していくだけなんだ。いわば援助をするのみ」
 それでも、夢術師の力は人々の支えとなり、力となった。自分一人では答えが見つからないからだ。だが。

「目覚めない人の夢に入ることは、今までなかったんだ。何をどうすれば解決するのかもわからない。何故目覚めないのかを調べるには、あまりにも情報が少なすぎる。だから、依頼を受けてもどうしたらいいか困っているんだ」
 そんな中で、キャナはド・ランダを行った。彼女らしい行動力でもあるし、無謀さでもある。
 目覚めない人の夢に取り込まれて、夢から出られなくなる可能性だってあるのだから。
 出られたとしても、虚となってしまえば元も子もない。
「キャナの補佐は、ラカルだった。アモーガスが志願していたけど、彼には他に依頼が入っていたからね。キーマからの依頼は、やっぱりキーマにお願いしたいって言うヒトが多くて」
 宿屋の女将さん同様、キーマ側にも人間嫌いがいても不思議ではない。
 イノはきっと今、自分は難しい顔をしているんだろうなと思いつつリンロットの方に向き直った。
 リンロットは全てを見透かすようにただ微笑んでうなずいた。
「キャナが依頼主――正確には、目覚めない人の身内から依頼されているんだけど。その人の夢に入ったのはほんの数分だったらしいんだ。目覚めてすぐ――」
 アタシにはやっぱり無理みたいねん。
 そう言って、冷や汗を額からこぼしつつ倒れてしまったという。
「でも、しばらくしたら普通に目覚めて、自分の足で宿まで戻ってきたっていうんだから……キャナは大丈夫だと思う」
 心なしか語気が弱まった。
 アモーガスにはきっぱり「大丈夫」と言っていたけれど、きっとリンロットも不安なのかもしれない。それはアモーガスのことを想って取った行動なのだろう。
 口をつけずにずっと握りしめていた果物は、串を伝ってイノの指へ甘い液体が流れ落ちてきていた。べたべたする。

「私、今から宿に戻ってみます。キャナさんの様子を見に――」
「それは後からでも遅くないよ」とリンロットが話を遮ってきた。
 ちらりとイノの後ろに視線を送ると、何かとてつもなく可笑しなことでも思い出したのか、笑いをかみ殺した表情に変わる。どうしたというのだろう?
 リンロットの視線の先、振り返るとそこにはラカルが立っていた。何とか表情が読み取れるほどの距離。怒っている。
「……ラカルさん、怒ってます?」
「怒ってるかなあ。無断でイノを連れ出しちゃったボクに対して、だろうけど」
 先に立ち上がり、手を差し伸べてきた。
 握った手はやはり冷たく、ほんの少し握力も弱く感じられた。単に握り返してくれなかっただけかもしれない。
 イノの背を優しく押しながら、リンロットが耳元でささやいてきた。ほのかに甘い香りがイノの鼻をくすぐる。

「これは秘密なんだけど。実はボク、一人で調べていることがあってね。夢から目覚めない人に関係するかもしれないんだけれど……」
 慌てて振り返ろうとしたイノを、リンロットは「振り返らずに」と制してきた。
「イノには話そうと思う。でも、ラカルたちには秘密にしてね。夢術師の中に《裏切り者》がいるかもしれないから」
「えっ?」
 たまらず振り返った。リンロットは目を細めてうなずいた。口元は引き締めている。
「ラカルとの用事が終わったら、またここにおいで。待ってるから」
 そうしてもう一度、今度は力を込めて背中を押してきた。イノは思わず二、三歩前に出る。

 前を向くと、もうすぐそこまでラカルが歩いてきていた。眉間に大きなしわを作って。



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カテゴリ: 長編

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コメント

ラカルさま、お怒り(笑

イノちゃんを勝手に連れ出されて、お怒りのラカルさま^^
リンロットさん、怒こられるの決定?(笑

キャナさん、そんなに難しい方に相対していたんですね。
前話のアモーガスさんの心配を、凄く実感しました。
補佐として一緒にいたかったのに、他の依頼でいられなかったからきっと余計に。
あぁ、アモーガスさん、株急上昇中っっ!
リンロットさんが調べている、”何か”
夢術師に裏切り者がいるかもとは……
謎が謎呼ぶ、ドキドキの展開ですね!
続き楽しみにしてます~

kazu osino #7av6LuR2 | URL【2011/10/17 18:24】edit

ワクワクする~☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆

いよいよ、ド・ランダのないようがっ!
そうかぁ~、なるほど!悪夢を治すって、こういうことなんですね!
しかし、しかし!目覚めない人ってのも怖い。
そして。リンロット、なんだか具合が悪そうですヽ(´o`;
心配。危険な匂いもするし…
今回はラカルが悪いんだから。ぷんっ!
なんて、イノちゃんは言わないんだろうなぁ~
そこがまた可愛い~(^∇^)
ラカルが何をいうのか楽しみに、次回を待ちます~!

らんらら #- | URL【2011/10/17 20:30】edit

>kazuさん♪

ラカル、お怒りモードです。ぷぷぷ☆
でもねーほっぽっておいて、勝手に怒るラカルもラカルだわーと、筆者としては冷たい意見を抱きつつ(笑)

実は。ちょっとした事件(?)が起こりつつあります。
キャナが挑戦してみたけれど失敗した様子。
アモーガスは気が気じゃないみたいで、朝っぱらから酒をあおるという…
kazuさんからの株、急上昇と聞いて嬉しそうにしておりますが(笑)←

さあ、どんどん話を転がしていかなければ!
上手くまとめられるかが、一番不安なところですが…><
おかしな箇所があったら教えてくださいっ!(切実)

chacha #- | URL【2011/10/17 22:41】edit

>らんららさん♪

やっとご説明が出来ました^^;
何だか、自分の長編小説ってもどかしい部分が多くてもやもやしちゃいます、自分でも(笑)
うん、でも今回はこのまま突っ走ってゆきます!次回作からしっかり練ろう!←

夢術師の力は、意外とこんなものです。
でも、人の夢が覗けるのはちょっとうらやましかったり…(笑)
現代でいうところの「夢占い」に似通ってるかな?とか^^;

リンロットの様子に気が付いてくださり、ありがとうございます☆
じわじわと色んなことが起こる中で、答えが見えてくればいいなぁ…と思ってます^^

ラカルに、ぷん!と出来ないんだろうな~イノは^^;
どこかで爆発しないと、ラカルが付け上がりそうだわ…(笑)

chacha #- | URL【2011/10/17 22:48】edit

No title

ほぇ~、夢術師のそれって
結構心理カウンセラーなどに近いんですね
心理学が好きな私としては
これから先の展開がより楽しめそうです(・ω・

精神科医の先生から伺ったことがありますが
現実でも、悪夢を見るのは心が疲れているからではなく
むしろ悪夢を見ることによって心を整理して
不安の根源を取り除くための『援助』であるとか
…あれ?なんか前に話したことあるかな?(^^;

とにかく、そんなデリケートな職業ですから
それを利用する裏切り者が個人的に許せませんね
続き楽しみにしておりますノシ

sun #iBQcsk6M | URL【2011/10/18 15:11】edit

>sunさん♪

そうそう!心理カウンセラーみたいな感じでしょうか。それか心療内科?
術師、と名をつけることに若干の抵抗があったものの、まぁ夢に入ること自体一般人には出来ることではないし…いっか!となりまして(こらこら
私の場合、心理学に詳しくはないのですが。
夢占いがかなり好きです!←
これはもう、かれこれ10年、いや15年?ほど続いているかもしれません。
だから、取り入れてみたかったテーマの一つなんです^^

そう。
また物語の途中で誰かが口にするかもしれませんが、夢というのは何らかのメッセージが込められていたり、その夢によって気持ちの整理がついたりするそうです。
だから、悪夢も大事。悪いものじゃないんですよね^^

これから色んなことが起こって、色んなものが見えてくると思います。
マイペースですが、よろしくお願いします^^
いつも本当にありがとうございます~!sunさんのコメントって本当、ためになる~♪

chacha #- | URL【2011/10/18 22:29】edit

お、追いついてしまうっw

chachaさん、こんばんは~^^;

ついに、夢術師のド・ランダの内実が明かされましたね!
なるほど、こういうものだったのかあ。
特別、何か不思議な力を使って悪夢の怪物と戦ったり、という訳ではない、ことが、逆にリアルで、ありそうというか‥‥現実の人間も、夢に入るチカラさえあれば夢術師になれそうなところが、イイ!ですね♪
世界の人々、それならそんなに夢術師を嫌わなくてもいいじゃないかっ。こんなに素敵な人たちなのにっ。
(あ、精神世界を覗かれてしまうから、でしたっけorz)

う~ん、しかもリンロットがさらに謎をばらまいて‥‥ゲフンゲフン
こりゃ、続きがますます楽しみですぞっ。
現行に追いついてしまおうか、すっごく悩んでしまいましたが‥‥明日また来ます(*´ω`*)テレ

続き、楽しみにしています♪

土屋マル #- | URL【2012/01/03 00:52】edit

>マルさん♪

こんばんわです^^
いや~これはですね。本当色々と考えた挙句の結果でして。
書き始めた当初はそれこそ、夢術師って色んなことが出来る設定だったんですけれど。
うーん。なんだろう。先の話を考えていくにつれて、あまりにも夢術師が万能だと主人公のイノが掠れてしまいそうで@@;
断念しちゃった経緯があります。(暴露

ちょっと物足りないなぁと、実は後悔しているのも事実ですが(笑)
うん。ここは早くイノにね。ちょっとこうお話をコロコロ転がしてもらえば何とかうやむやに…(こらこら
色んな夢世界を考えておりますので、そちらで何とか!←

そうそう。リンロットがね。もうまだ謎をばらまくのかよとツッコミたくなる言動をですね。やっちゃったわけですが(笑)
あ~自分で自分の首を絞めております。大丈夫なんだろうか…どきどき@@;

またがんばって更新してゆきますので!じゃんじゃん現行に追っついちゃってくださいませ^^
いつもありがとうございます☆書き手としては、本当に幸せなのですよ~♪

chacha #- | URL【2012/01/04 00:56】edit

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