忘れはしない時と唄

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【小説】夢術師の夢 第三章 ド・ランダ 

1



 真っ白な世界。
 音のない世界。
 ここはイノ以外誰もいない、イノの夢の中。
 目を何度かしばたたき、目の前に広がる風景を見て、ああ、今日もまたと溜息をこぼす。その溜息すら、この白い世界に吸い込まれてゆく。
 足元には草が生えている。ぐるりは木々が整列するように直立し、空を見上げている。その葉の向こうには雲と太陽が。視線を前方に戻せば、イノの生まれ育った家がぽつねんと建っている。

 ここはルバー村だ。イノの故郷。実際と違うところは、全ての景色に『色』がないこと。全てのものに『音』がないこと。
 例えば、羊皮紙に一本の黒鉛で絵を描いたように。全てのモノの輪郭だけがそこに在る。
 時折風が吹き、木々が音もなくゆれ。色のない葉がはらはらと落ちる。その中を、イノはいつもと同じように自分の家へと足を向ける。誰かそこにいるかもしれないという期待を胸に。真っ白な草を踏み、音の立たない足元を見つめながら。
 そして。がらんとした家の中を眺めて、いつもの光景を目の当たりにして、イノは喉がぐっと詰まる。

 誰も居ない。
 誰も来ない。
 私は、独りきりなんだ――
 頭の中で何度も反芻される言葉。目を強くぐっとつむり、唇を噛みしめる。胸の奥が悲しみに震え、腕や首筋が粟立つ。
 泣かない。泣いてはいけない。そう、イドじいちゃんに教わったから。
(イノ、泣いては駄目だ。弱みを見せては駄目だ。おまえの弱さに付け込んで、おまえを利用する者がいることを、ゆめゆめ忘れてはならん)
 あれはいつだっただろう。
 暗がりの中、二人身を寄せ合うようにして、他には誰も居ないというのに内緒話でもするかのように囁きながら。
 イドはひどく怯えていた。
 村の人々の耳ざとさを、イノの秘められた力を、そしてそれに対する己の非力さを。
(イノ。おまえは決して、自分の秘密を他人に漏らしてはいかん。おまえの力は、単に夢に介入する『夢術師』とは違うのだから)
 そう言ったイドじいちゃんの顔。今思い出しても背筋が伸びる思いがする。くぼんだ瞳には強い光が宿り、イノの手を握り締める彼のこわばった両手は小さく震えていた。イノにきつく言い聞かせるためなのか、イノを恐れているためなのか、それは今となってはわからない。

 イノは戸口の近くに置いてある椅子を引き寄せ、すとんと腰を下ろした。
 戸を開け放ったまま、家の中から外をぼんやりと眺め続ける。誰も来ないここで、何の彩りもない風景を、何も聞こえない世界に耳を澄ませて。

 この夢は、イノの創った世界だ。
 何故自分がこんな夢を創り上げたのか、わからない。でも、いつも決まってこの夢を見る。何か意味があるのだと考えることもあったが、どうにも目が覚めてしまうと、夢のことなどこれっぽっちも思い出せないから厄介な話だ。夢と記憶は混在するのに、夢と現実は切り離されてしまう。
 キャナが言っていた。夢術師もまた、自分の夢を覚えていられないのだと。やはり、似通った部分があるのだろう。
 振り返れば家の奥にはもう一つの扉があり、そこには鍵がかけられている。手元を探ってみても、その鍵穴に合う鍵は見つからない。そもそもイノは何も持っていない。
 一体扉の向こうには何があるのだろうかと、首を傾げては考えるのをやめてしまう。気になる存在のはずなのに、心のどこかでそれを避けている。だから、意固地になって開けてやろうという気にならないのかもしれない。

 ――イドじいちゃん。
 呟く声は静寂に吸い込まれ。イノが発した言葉などもとから何もなかったかのように、澄ました顔でこの世界はイノを見下ろしてくる。この世界の主を。
 ――おとうさん、おかあさん。
 声にならない言葉を口にして、再び唇を噛みしめる。涙を堪える。誰も居ないこの世界では泣いてもいいはずなのに。目に見えない何かにそれを押さえとどめられている。
 夢から目覚めるにはどうすれば良かったのだろう。
 早くこの世界から抜け出したい。
 早く、早く、早く。
 そこで、いつもなら目が覚めていた。胸の前で手を組み合わせ、祈るように頭を垂れて何度も願うと、次の瞬間には現実に引き戻されていた。でも、今日は違っていた。

 かさり。と、確かに何かの音を耳にした。音のないこの世界で、初めて聞こえた『音』だった。
 嬉しさよりも、怖さが勝った。いつも見る夢を否定しながらも、それに慣れてしまった自分がいたから。不測の事態が起こり、混乱が恐怖を呼び寄せたのかもしれない。
 ごくりと唾を飲みこむ。音の立った方へと足を向ける。戸口を出て、辺りを見渡したが誰も何も居なかった。心なしか、安堵の息がもれる。確かに音がしたはずだけど、耳がおかしくなっているのかもしれない。こうも音がない世界となると――
 思いつつ視線を足元に下げると、イノは驚きのあまりぎょっと目を見開いた。全身がこわばってしまった。
 色のない世界で『それ』は、あまりにも鮮やかな色をしていて。
 触れてはいけないのか、それとも幻なのか。おそるおそる、イノは膝を折って拾い上げる。

 イノの手のひらより少し大きい、一片の真っ赤な花びらを――


 *


 ひとつまたたけば、隣の寝台でキャナが寝息をたてていた。
 ほんの一瞬、イノは自分がどこにいるのかわからなかった。何故他人と同じ部屋で眠っていたのか思い出せなかった。
 規則正しく呼吸が繰り返される彼女の向こうには窓があり、そこから見える空はひときわ輝く星々を除いて、ゆっくりと朝を迎える準備を始めている。
 再び視線をキャナに戻す。まだ働くことを拒む頭でぼんやりと眺める。キャナは口元の上まで布団をかぶり、今は下がりきった眉と閉じられたまぶたしか見えない。
「ぶ……ぶふふっ」
 ふいに見つめていた人物が笑い出した。けれど、目はつむったままだし呼吸も乱れていない。夢を見ているのかもしれない。
「ふふふっ……やめてよねん」
 楽しそうに笑い続けるキャナを見て、なんだかこちらまで楽しくなってきた。
 徐々に目が覚め、しっかりと昨日までの記憶が頭の中で整理し終えた。そうだ、私は今ラドリエルに来ているんだった。ここは故郷のルバー村より少し気温が低い。ぶるりと身体を震わせて、イノはゆっくりと起き上がる。
 部屋はしんと静まっており、壁に掛けられていた灯火も消えていた。窓の外からも、部屋の外からも音らしい音は聞こえてこない。まだ誰も起きていないのだろうか。
 もそもそと寝台から降り立つと、部屋の隅に置いた荷物から服を引っ張り出した。少し厚めの服を着よう。このままだと風邪をひいちゃうかもしれないもの。
 着替えが終わり、くるりと振り返ってキャナを見た。
 また、ぶふふと笑った。一体どんな夢を見ているんだろう。気になってきた。
 悪いことをするわけじゃない。ほんのちょっとだけ、『見てみたい』。
 そろり、そろりとキャナに近づき、イノがそうっと手を伸ばした瞬間――

「おい、起きているか」
 扉の向こうからラカルの声が聞こえ、イノは口から心臓が飛び出しそうになった。慌てて手を引っ込める。
「はい、起きてます!」



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カテゴリ: 長編

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コメント

こんにちは^^

わ~い、第三章!

イノちゃんの、夢。
色がない線画のみの世界。
音のない、静まり返った世界。
これは、怖い。自分の思考にずんずんとはまり続けてしまいそう。
イノちゃんは、夢を創る事ができるんですね。
いつもと違う、夢の続き。
無音の世界の初めての音。
真っ白な世界に現れた、真っ赤な花びら。
それが何を示すのか、どきどきします><

イドじいちゃんの強い戒め。
イノちゃんは一体どんな秘められた力を持っているのか、少しずつ秘密が明らかになって行くのでしょうか♪
楽しみに、続きを待っています^^
ラカルさま登場ーーっ!!
ここで切るなんて、chachaさんのいけず~←怪しい(笑

台風、来てますね><
どうぞお気をつけ下さいっ!

kazu osino #7av6LuR2 | URL【2011/09/02 15:42】edit

ああっ!!

いいところで!!
ラカルさま登場ですか~!?

ついにイノちゃんの夢ですね!
そしてその夢にも変化が!

ラドリエルに来たから?
ラカルにあったから?
様々な経験をしたから?
うう~ん、気になる~。

そして、キャナの楽しい夢♪きっと、こわばったままのイノちゃんを温めてくれそうな気がするのに~。

ラカルさまってば、こんな夜中に。
んま。
いったい何の御用でしょ?
色っぽいことならいいのだけれどきっとそうじゃないのしょうねv-390(←何キャラ?)

ついに、第三章、始まりましたね~!!
始まりからドキドキです♪
早く扉を開けて、イノちゃん♪~って気分です♪

らんらら #- | URL【2011/09/02 17:16】edit

>kazuさん♪

こんばんわです^^
第三章、やっと突入♪ちょこちょこ頑張っていこうっと♪

イノの夢。
こんな夢を見続けています、イノ。
何故なのか、まだ彼女自身はわかっていませんが…
うん。きっといつかわかる時がくるかと^^
そんな中で、夢に異変が起こりました。さてさて、これが意味するところとは…♪むふ。

イノには秘めた力があるのです。秘めたといっても、実はさらっとバラしてますが(笑)
追々、「あ、あのことだったのね」と気付いていただけるかと^^

やっとラカルの登場です♪
ある意味もう一人の主役なのに影が薄いから(笑)、ちょっと前に出てきてもらいます~^^

台風、大丈夫でした!ありがとうございました☆

chacha #- | URL【2011/09/03 20:47】edit

>らんららさん♪

むふふ♪
最後にちらっとだけ登場です(笑)
なんなんでしょうね、ホント。てか、タイミング良すぎでしょ!←
実はここも伏線だったりしますので~^^(とバラしてしまう私。酔ってるのか?

イノの夢、ずっと変わらなかった夢に変化が起こりました。
何故なんでしょう?
何かの影響か、それとも…?
と、匂わせておきます(笑)

キャナ、何を見てるんでしょうね~^^楽しそうです、えぇ♪
時々私も、人の夢を見てみたいと思うことがありますので。この夢術師の力は私の理想だったりします(笑)

うくく♪扉を開けるとそこにラカル。
さ~何が始まるんでしょ!
第三章、幕開けです~!^^
色々と、見えてくる部分を意識して…頑張ります♪

chacha #- | URL【2011/09/03 21:03】edit

No title

現実でも色の無い夢を見る人は結構いるそうです
想像力豊かな人は、見る夢も鮮烈で色もはっきりで
そうじゃないひとはその真逆だと言われますが
話半分で聞いてください、信憑性が低い情報なので(^^;

もしかしたら赤いはなびらって
キャナの夢の片鱗だったのかもしれませんね
だとしたら、なんで彼女は笑っているのだろうか?
あんな不気味な光景なのに…?
やっぱり違うかな?(><;

sun #iBQcsk6M | URL【2011/09/04 11:05】edit

こんにちは!

お久し振りになってしまいました、こんにちは^^
最新話まで読ませていただきました♪
イノちゃんの夢、寂しい夢ですね…。
いつもこんな夢を見ているのに、起きてしまうと忘れてしまうなんて。
でも初めてその夢に変化が!? ドキドキしてしまいました><;
赤い花びら。私も「赤」という共通点から、キャナを暗示しているのでは?と思いました^^
イノちゃんの秘密。どんなものなのかワクワクします♪
そしてラカル来たーーーー!!←
また読みに来ますね♪

かいり #H6hNXAII | URL【2011/09/04 17:09】edit

>sunさん♪

こんにちわ^^
ほうほう、現実でも色のない夢を見る方がいるんですね@@;
想像力で左右されるとは…なんだか、納得な部分もあったり^^;
私はぶっ飛んだ夢から、リアルな夢まで多種多様に見ていますが。色が真っ黒(暗闇)という夢もありました。それも想像力が欠けるからでしょうか?うーん。
夢って深いですよね~(笑)

赤い花びら。
これはいずれ、説明しなくてもわかる時がきます^^
その時、「ああ、だからか~」ともう一つの事柄と繋がる部分があるかと♪
今はまだ、お口チャックなのです(笑)
いつもありがとうございます^^
sunさんのコメントにはいつも(色んな意味で)ドキドキしちゃいますよ~♪

chacha #- | URL【2011/09/05 12:49】edit

>かいりさん♪

わ~い♪いらっしゃいませ^^
お忙しい中本当、ありがとうございます☆

そしてそして。かいりさん、そうなんです。イノの夢は「寂しい」んです。
見方を変えれば怖いですし、不思議ですけれど。かいりさんの感じた「寂しい」が一番しっくりくるような…
起きたら忘れるって本当、厄介ですよね~^^;
でも、そういう方って多くないですか?なんか楽しい夢見たんだけどなーって(笑)
そういう部分、現実と似通った感じに作っています♪

赤い花びらに、イノの秘密。ぐふふ♪
ラカルも来ましたし、さてさて、第三章開始です^^
いつでも時間のある時に、是非いらしてくださいね~☆
ありがとうございました!

chacha #- | URL【2011/09/05 12:53】edit

こんばんは

スッカリ出遅れてしまいました。
そして、コメントもすっかり出尽くしてしまった感が(笑

>おまえの力は、単に夢に介入する『夢術師』とは違う

イドのこの言葉はやはり引っかかりますね。
そもそも、夢術師の持つ具体的な能力を理解していないので、どこまでが「普通」の夢術師で、どこからが違うのか、今の段階では巧く誤魔化されていて分からないのが悔しい。
夢を作り出せるのか。
あるいはキャナにしようとしたように、触れることでその夢を共有できることか、それともそれとも……

夢の中にある開かずの扉。
ミステリの香りがします♪

楓 #u2lyCPR2 | URL【2011/09/07 20:50】edit

>楓さん♪

こんにちわ^^
私もすっかり遅くなってしまいました><。
家のネットがストップしていた関係で、なかなかブログを開くことが出来なかったものでして…^^;
楓さんは多忙中、とのこと。お体には気をつけてくださいね^^

コメント、すっかり出ちゃいました(笑)
なんだか見返すと、自分で色々喋っちゃってる感が。なんだろ、やっぱり酔ってたのか?@@;

夢術師が具体的にどんな力があり、どんな感じで治療するのか。その説明や描写がまだ出てきていない中での、イノの秘密。
夢術師とは違うけれど…と。
うーん。回収大丈夫かな、自分(笑)

色々と回りくどいですが、種明かしをしてしまえば「なんだー」ってなるかもしれませんが^^;
ミステリ要素も踏まえつつ、がんばりますです!

今日からやっとネットが使えるー♪
帰ってPC開こうっと^^
ありがとうございました☆

chacha #- | URL【2011/09/12 12:41】edit

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