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忘れはしない時と唄

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【小説】夢術師の夢 第二章 集会 

7



 しんと、静まり返る聖堂内。それこそ、水を打ったように誰一人として声を出さず。
 開かれたままの扉からは、夜気が待ちわびていたかのように一気に流れ込んでくる。その風の冷たさに、イノは思わず両腕で身体を抱きしめたい衝動に駆られた。
 でも、出来ない。動けない。それらを許さない雰囲気が、たった今現れた人物からむんむんと出ているから。

 ちらと目だけで辺りを見渡し、見知った顔を探した。
 イノとラカルは中央通路の半ばほどに立っていて、扉付近にバームとリンロットたちが。祭壇の傍にある席にアモーガスとキャナが座っている。
 皆一様に顔が強張り、じっと扉を見据えていた。
 それらの視線を一身に浴びた人物は、その場の空気が面白かったのだろう。口の端を持ち上げ、ふん、と息を吐く。ぐるりと顔を動かした。右から左へじっくりと。イノともばっちり目が合い、思わず背筋がぞくりと震えた。

 イノたちの背後から、慌てたように白の法衣をまとった人物が一人走り出た。先ほど祭壇の上で語っていた司祭だ。「ギュラ司教!」と声を上げつつ駆け寄っていく。
 ギュラ司教と呼ばれた彼は、禿げ上がった額に君臨する太い眉毛をぴくりと動かした。
「司教! この者たちの許可は、聖ジハ司祭会にて頂いております! どうか――」
「聖ジハ司祭会、だと!? おまえたち司祭の上長はこの私だろう!」
 びりびりとお腹にまで響くギュラ司教の怒声。傍に立ち尽くす司祭は、ただただこの場をやり過ごす他ないと思ったのだろう。後には何も言わず、頭を垂れてじっと動かない。
「そして私は、シェ・ドー王の助言者の一人でもある。くだらん司祭会よりも、まず私に知らせることが先決だろう? 一体どういうことだ!」
「ギュラ司教」
 声をかけて、歩み出たのはバームであった。長いひげをゆらりと揺らしつつ歩を進めていき、ギュラ司教の二歩手前で立ち止まる。
「申し訳ありませんでしたな。司教の御所望とあらば、我々は早々に退きましょう」
「……バーム・キキか。ふん。ということは、こいつらは皆《夢術師》ということか。忌まわしい手でこの聖堂を汚しにでもきたのか?」
「お言葉ですが司教。聖堂というものはどの地においても万人へ平等に開かれるものでしょう」
「キーマは人間ではない。下衆で愚鈍な、臭いケダモノだ」
 その言葉を聞いた瞬間、イノは胃の底がじりじりと焦げ付くのを感じた。なんてひどいことを言うんだ、この人は――!
 頭に浮んだのは、キャナとアモーガスの顔。きっとキャナはこの司教に食ってかかる勢いのはず。でも、アモーガスがそれを制しているんだ。いつものように、優しくなだめながら。
 かくいうイノだって、司教の顔を睨みつけるようにじっと見据え、知らず両手が拳に握られていた。今にも走り出していって、あの司教の膝に一蹴り入れたいものだったが、周りのみんながじっとこらえているのだ。イノは何度も怒りをごくりと飲み込まなければいけなかった。

 バームは別段表情を変えず、「それは言い過ぎというものでありましょう」と口元に笑みを浮かべる。けれどきっと、今バームの瞳を覗き込んだならば、怒りの炎がちりちりと燃えているのが見えるはずで。
「ふん。一体ここで何をしていたのだ? ん?」
「イド・リックの告別式です」
「ほう、イド・リックか。ははは! とうとう死んだか。それは重畳(ちょうじょう)」
 ぴり、と空気の張り詰める音が聞こえた。イノはチョウジョウという言葉の意味がわからなかったが、司教の表情と軽口な様を見て、もう我慢が出来なかった。
 ひどい。ひどい。ひどい。人の死を聞いて笑うなんて。イドじいちゃんのこと、あんなにも嬉しそうに話すなんて――!
 思わず一歩足が踏み出たけれど、それをラカルが引き止めた。肩を優しく掴まれて、今までで初めてかもしれないほどに、険しい瞳でこちらを見つめてくる。
 イノは泣きそうになった。どうして。何故こちらが我慢しなければならないの。ラカルを見上げつつ、ぐっと唇を噛みしめる。悔しくて、悲しくて、苦しかった。

「大体、夢術師という存在自体、今やこのクリードラでは要用の者ではないだろう。早急にこの国から出ていってもらいたいものだな」
 そう言って、司教は片手を上げて追い払うような手つきをした。バームは特に反論をするでもなく、司教に対して一礼すると辺りを振り返る。そうして、無言で語りかけてきた。ここは早々に立ち去ろう、と。
 ぽん。と今度は優しく背中を叩かれた。ラカルだ。いつもの無愛想な顔に戻っている。イノは先ほど止められたことが納得いかなくて、ぷいと視線をそらした。
 この司教がどんなにエライ人か知らない。だけど、こんなにも人を傷つけるようなこと、エライからって言っていいはずないのに!
 皆がのろのろと聖堂を去り始めた流れの中で、イノだけは動き出すことが出来なかった。ラカルがお得意の溜息をこぼしたけれど、気にしない。あんなに素敵なキーマのヒトたちを、夢術師たちを、イドじいちゃんを。傷つけたんだもの。
 絶対に許すものか!

「し――」
「司教」
 イノの言葉に被さってきたのは、ラカルだった。ぐいと腕をひかれ、反動でラカルの背に隠れる形となった。イノは意味がわからず、ただ唖然とラカルの後頭部を見上げる。
「司教、俺を覚えているか」
 静まり返っていた聖堂内に、ラカルの声音が美しく響く。え。ラカルが司教と知り合い?
 司教はラカルの言葉を受け、今までのにやけた顔を引っ込ませこちらと対峙した。太い眉毛が一本に繋がりそうなほど寄せている。
「……ラカル・ド・エンか」
「覚えているとは光栄だ。なら、その後の俺の悪評も耳に届いているだろう?」
「無論。全く、王も血迷ったことをなされた。私は始めから異論を唱えておったのに――」
「あれは本当のことだ」
 言った瞬間、ひゅっと息を飲む司教の声が聞こえた。目を見開き、心なしか顔が青ざめ出したようで。
 イノが何のことかわからず辺りを見渡すと、皆司教ではなくラカルを見つめていた。驚きの表情が多かったが、リンロットたちはどこか辛そうで。
 何のことを言っているの? あれって何?
 聖堂内の闇が、じわじわとラカルに近寄ってくる。それらの影をまとい、口を開くラカルの言葉はひどく重みを増してくる。
「俺には簡単なことだ、司教。その薄汚い口を二度と開くなよ。でなければ……どこに居ても、眠らないよう気を付けるんだな」
 語尾には怒気が込められていた。ラカルの後ろに立つイノからは、彼の表情を見ることは出来ないけれど。思わず一歩後ずさってしまう。怖かった。

「ラカル、口を慎め」
 バームだ。背筋をぴんと伸ばして、長いひげの上から胸の辺りに手をあてている。
「司教、失礼しましたな。ラカルはまだまだ未熟者でございます。どうか耳を貸さぬよう」
 言っている途中で、司教はその場を立ち去ってしまった。逃げていくように素早かった。ぽかんと口を開けてその様子を見ていると、ラカルが振り返って溜息を吐いた。その顔はいつも見る無愛想な顔で。
「あいつは女子供にも容赦ない。もっと考えて行動しろ」
「……ラカルさんがです」
「どういう意味だ」

 イノの視線はラカルの背後にあった。ラカルさん、だってほら。バームさんがものすごく怖い顔してこっちに歩いてきていますよ。
 でも。
 イノは込み上げてくる笑いを抑えることが出来なかった。
 気づけば、辺りも拍手や口笛、笑い声で賑やかなものに変わっていた。



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カテゴリ: 長編

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コメント

再開ですね

こんんいちは。
執筆再開ですね。
お盆はゆっくりやすめました?

ギュラ司教の嫌われっぷりが素晴らしいですね。西院に勝るとも劣らない悪臭を放っています。唯我独尊、人の話に耳を貸さない、まずは俺を通せ発言。やっぱこうでなくては。って、もしや実はいいヤツだったなんて展開があったらすみません(笑

ラカルも堪忍袋の緒が切れた、と言うところでしょうか。普段の言動とは異なる、ある意味「子供」な行動。でも嫌いじゃないです。最後に拍手が起こるシーンは爽快でした。

さあさ、ラカルの秘密が少しずつ語られるんですかね?
楽しみです。

楓 #u2lyCPR2 | URL【2011/08/17 11:06】edit

>楓さん♪

かなりゆっくりさせていただきました~^^
楓さんはどうでした?暑~いお盆でしたね@@;

ギュラ司教。西院に出会ってから、これは負けていられないぞとばかりに嫌~な奴に仕立て上げました(笑)
嫌われ者って、話の中では大事な存在ですよね^^ぷぷ♪
大丈夫です。彼には最後まで、悪に徹していただきます(笑)

ラカルもなんだか違った感じで。そう、大人な対応をしていたバームとは裏腹に、子供じみた行動をしちゃいましたけれど^^;
ぷっちん、きちゃったのかなぁ。怖い怖い(笑)

さてさて。まずはラカルの秘密から、ですかね~^^
やっと役者も揃いました♪(名前しか出ていない人も、実は一名おりますが☆)
ぐぐっと話に波を立てて、動かしていこうと思います♪
コメント、ありがとうございました~^^

chacha #- | URL【2011/08/17 12:28】edit

きゅ~ん♪

ラカル、素敵~!!
かっこい~!!
深い理由とか皆が心配するようなことがあるのだろうけど!

でも、すっきり♪
ほんと、ギュラ(名前も可愛げない)司教。やなやつ~!!

夢術師のみんなも、アットホームで優しくて。
だからこそ、ラカルが集会に出なくなった理由が気になります。
王様のこと、どんな事件があったのか…。
ああ、すぐには明かされないですよね~どきどき。

楽しみにしてます~!!

らんらら #- | URL【2011/08/17 12:51】edit

さすがラカルさま^^

うんうん、ラカルさま素敵ーっっ!
イノちゃんの憤りを理解して、それでも彼女に矛先が行かないよう、自分の過去を持ち出してギュラ司祭を追い払う。
あーっ、もういいっ!
素敵すぎるっ!

しかし皆さんおっしゃってますが、ギュラ司祭、嫌な奴ですね><
後ろから延髄蹴りをかましたい(怒

そんな中、大人の対応を貫いたバームさん、忍耐力半端ない!
格好いいなぁ~♪

ラカルさまの秘密。
更新楽しみに待ってます^^

kazu osino #7av6LuR2 | URL【2011/08/17 20:44】edit

>らんららさん♪

ラカル、褒められた~♪良かったね~^^(笑)
やっぱり。言いたい放題言われて、そのまま我慢なんて…出来ませんでした、私が(え

ラカルには秘密があって。でも、仲間内ではそれが知られていて。
周りから、本人から、根掘り葉掘り語っていただきましょう。うんうん(笑)

夢術師、基本仲良しっぽいですが^^
世界の背景も絡めて、色々とやらかしてやります~うふふ♪←悪魔?
王様とラカルも知り合いのようです。さてさて♪

もう少し更新速度、アップしたい今日この頃…@@;
暑さのせいです(うそつけー

chacha #- | URL【2011/08/18 13:53】edit

>kazuさん♪

うふふ~♪
ラカルなりの気遣い(庇い?)なのか、はたまた自分が我慢できなかったのか。
奴は私でも読めません。(おいおい
でも、おそらく前者なんじゃないかな~なんて、作者のくせにニヤニヤしたり(笑)

ギュラ司教に延髄蹴り…(笑)もう本当、とことん嫌ってください♪それが私の喜びになります!^^←
うーん、でもやっぱり。エロがないだけ西院には負けるような…(笑)
エロ、出すか?おぉ?

ラカルの秘密も。あと、夢術師のことなどをそろそろ紐解いてゆきます^^
どどーんと話を進めたいので、皆にべらべらと喋ってもらおうっと♪←

chacha #- | URL【2011/08/18 14:34】edit

No title

「眠るなよ」って斬新な脅しの方法ですね…
それでいて物凄く苦痛な…(^^;

昔、無免許天才外科医の漫画で
ヤクザに「手術を中止しろ」と迫られた際
外科医が動物の内臓をヤクザに見せながら
「ほら、血生臭いことが好きなのだろう?」と
メスで内臓を切り裂いたシーンが心に残ってます
「これが医者流の脅しだ」と言わんばかりに
グロテスクな光景を見せられたヤクザは
一目散に逃げ出して…(・∀・

相手が権力で脅しに来るなら
こっちは夢術師流の脅しで対抗する
決して物騒ではないと言えませんが
直接の暴力が無いだけまだマシかもしれませんね(・ω・*

sun #iBQcsk6M | URL【2011/08/20 09:42】edit

>sunさん♪

おはようごさいます~♪
そう、斬新な脅し文句…ある意味拷問です(笑)怖い怖い@@;

医者の脅しはかなり怖いですね~!それ言われちゃ、ヤクザだろうが逃げちゃうって話です、いやホントに^^;
権力をひけらかすならば。こちらも得意分野でいかせていただきますよ、というところでしょうか。いつになく熱くなっております、ラカル。らしくないなー

直接の暴力…描写が不得意なため、おそらく今後も必要最低限出てこないかと(笑)
力量不足はこういったところにも響いてくるという…辛いっ!><。

いつもコメントありがとうございます☆本当に嬉しいのですよ~!

chacha #- | URL【2011/08/21 09:48】edit

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