忘れはしない時と唄

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【小説】闇に溶ける闇 『扉』 

見てはいけなかった

気がついてはいけなかった




「うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 鏡に映った男は、自身の顔を掻きむしり狂ったように叫び続けた。拳を握り締め、鏡を何度も殴りつける。みしりとヒビが放射線状に広がった。
 大量の血痕。
 割れた鏡。
 点滅する蛍光灯。
 ある場所と似通っていることに気がついた。そうだ、ここは――
「思い出したかしら?」
 扉の向こう側から「女」の声が聞こえてきた。声がうわずっている。明らかに楽しんでいるようだ。
「そう、あなたは『麻紀』じゃないの。あなた自身で、あなたの中の『麻紀』を演じていたのよ……『昌人』」
 言い終わると同時に、ガチャリと鍵の開く音がした。


 ギィィ……ィィ…………


 昌人は息を呑んだ。
 開かれた扉の向こうには闇が広がっている。だが確かに、その闇の中に『本物の麻紀』がいる。
「ま、き……?」
「……昌人、よくわかったわ。あなたは私のこと、そんな風に思っていたのね」
 どくん。心臓が飛び跳ねる。
「私のせいで、あなたは泣いていた? 私があなたに迷惑をかけていた?」
 あはははは! 麻紀は叫ぶように笑った。昌人の顔からはみるみると血の気が引いていく。
「いつもいつも何かにつけて殴ってきたのは昌人、あなたじゃないの」
 その言葉で、ぱんと何かが弾けた。もやのかかっていた昌人の記憶が、急速にクリアになっていく。

 ――やめて昌人! いやぁ! 誰か助けてぇぇ!!

 麻紀の叫び声を思い出す。
 そうだ、俺は――
 昌人の最後の記憶がよみがえる。

 仕事から帰ったあの時、麻紀が包丁を持って玄関に立っていたんだ。
 いつも俺に従順だった麻紀が、近頃になって抵抗するようになっていた。だからその姿を見た瞬間に悟ったんだ。

『麻紀(こいつ)はもう俺を愛していない』

 あとの行動はほとんど昌人の意思なく行われた。
 麻紀の髪を掴んで振り回し、洗面台の鏡に彼女の顔を叩きつけた。
 割れた鏡の破片が床に散らばり、その上に麻紀を放り投げる。
 点滅を繰り返す脱衣所の蛍光灯の下、昌人は奪った包丁を頭上高く掲げ――
 殺シタ。

「あなたは何度も私を刺したわ。何度も何度も、息絶えてもなお刺したのよ」
 ほら、と言って闇の中から細く傷だらけの腕がにゅっと現れた。白い肌は血で赤く染まっていた。
「あなたの暴力はどんどんひどくなっていった。だから、私はあなたから逃げようと思って……」
 包丁で脅して、それでも昌人が改心しそうになければ逃げ出すつもりでいた。麻紀は自嘲するように呟いた。
「ねぇ……昌人? 最近私の姿を見て、何とも思わなかったの?」
 ぺたり。
 闇から麻紀が姿を見せた。
「こんなに醜くなっていたのに……」

 現れた麻紀の姿に、昌人は悲鳴をあげて卒倒した。手足ががくがくと震え、涙とよだれが無意識に流れ落ちる。口の端には泡が浮かんだ。
 立ち上がることも出来ず、昌人は尻をついた状態で後ろにずって進む。すぐに背中が壁にぶつかった。
 細くやつれた身体。
 赤黒く膨れ上がった顔。
 右手が折れ曲がり、指がぴくぴくとうごめいている。
 そして、全身血まみれだった。

「うわぁぁぁ!! く、来るな! 来るなぁぁぁぁっ!!」
 昌人の叫びは空しく闇へ溶けていく。

 ずず、ずず……

 麻紀がぼこりと膨れた唇に笑みを浮かべた。
「ここはね昌人、生と死の狭間なの」
 目の前に醜い麻紀の顔が近づいた。固まった昌人の首に手を添えて囁く。

「あなたはこちら側の人間よ……昌人」



『真実』 最終話へ続く
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カテゴリ: 中編

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コメント

No title

こちら側とあちら側の世界がありますよね。
甲田学人のミッシングは恐ろしいほどそれを探求した作品でしたね。神隠しについての古今東西3000冊の資料をもとに現代版の神隠しを描いたあの小説は面白かったですね。

神隠しから帰ってきた子どもは特殊な能力を備わっているようですよ。

LandM(才条 蓮) #19fPlKYU | URL【2011/07/30 09:39】edit

>才条 蓮さん♪

おおお、お返事遅くなりまして><
すみませんです~!!そして、いつもありがとうございます!^^
実はですね。才条さんにもお伝えしたいのですが。家のPCが何かあったのか停止状態のままなんですよ…(壊れたといってもいいかも?
なので、もっぱら会社で。しかもお昼休みだけでブログ読んだり返信したりしているので><。
ごめんなさいです;;

でで。
才条さんのおっしゃる作品を知らない私はやはり恥なのかもしれませんが@@;
なんだか面白そうっ♪気になってきました^^
読書も豊富にしてそうな匂いがします、才条さんは。くんくん…(笑)

ありがとうございました^^

chacha #- | URL【2011/08/02 12:28】edit

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