忘れはしない時と唄

10« 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 10. 11. 12. 13. 14. 15. 16. 17. 18. 19. 20. 21. 22. 23. 24. 25. 26. 27. 28. 29. 30.»12

このページの記事一覧

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

カテゴリ: スポンサー広告

[edit]

TB: --    CM: --    

【小説】夢術師の夢 第二章 集会 

2


 現れたのは女性だった。
 イノの目にまず飛び込んだのは、燃えるような真っ赤な髪の毛。両耳の上で束ねた長い髪が、獣の尻尾のように揺れて。
 くりくりとした大きな瞳。ぽってりとした唇。
 真っ白な肌に、赤い紅が映える。
 目のやり場に困るような生地の少ない服装に、思わず頬が赤くなった。
 女性らしい曲線美を強調した服といえばわかりやすいかもしれない。
 そんな見知らぬ彼女は、扉を開けて真っ先にイノを見た。
 ばっちりと目が合った。
 イノは一呼吸遅れてにこりと微笑んでみせたが、彼女は不思議そうに首を傾げる。
「あら? ここの部屋じゃなかったのかしらん」
 顎に人差し指を添えて、うーんと考え込むように見せてから、扉の向こうへ姿を隠してしまった。
 あれ? どうしたんだろう。
 気になってイノが扉の向こうに視線をやると、目の前に座っていたリンロットが慌てて声をあげた。
「キャナ! 合ってるよキャナ! ここの部屋だよ!」
 キャナと呼ばれた先ほどの彼女が、再び扉のこちら側へひょこっと顔を覗かせた。
 見れば、彼女は細く長い指で扉の枠を掴み、細目でこちらをじっと睨んでいるようで。
 イノが首を傾げて見せると、彼女も同じ角度で、同じ方向に首を傾げてきた。
「……誰、この子。同業者?」
 ほんの少し棘のある言い方。それだけで十分、イノは居心地の悪さを感じることが出来た。
 真っ先に仲間内であるかどうかを訊ねるところを見ると、そうでない場合、それなりの対応をしようという真意があるようで。
 ちくり。
 胸の痛みを抑えつつ、イノは極力自然に。窓の外へと視線を移す。
「いや、イノは夢術師じゃないよ。イノは――」
「じゃあ何。リンロットの新しい彼女? また懲りずにフツーの人と付き合うのねん」
 その言葉で、穏やかだった室内の空気が張り詰めたのがわかった。
 いつ見ても優しく微笑んでいるリンロットの表情が強張って。
 途端、イノは胸の内がはらはらとし始めた。車窓を流れる壮大な景色など、もうどうでも良い。
「……違う」
「なあに? 彼女じゃないんだ。そうよねん、だってリンロット。あんた前の彼女のこと――」
「言うな!」
 リンロットの叫びにも近い怒声に、イノの心臓は大きく飛び跳ねた。つられて身体の方は椅子から小さく跳ね上がってしまった。

 しんと静まり返る客室。
 がたんがたんと線路の上を走る汽車の音が、酷く耳に響く。
 ごくり。
 喉が渇いているイノは、空唾を飲み込んだ。

 キャナと呼ばれた彼女も、おそらくはリンロットと同じ夢術師なのだろう。
 二人は知り合いで、きっと付き合いも長いから。だから、リンロットが触れて欲しくない部分をも、彼女は知っているのだ。
 わざとリンロットをつついているようにも見えるし、そうではなく、話の流れで言ってしまった風にも見える。
 どちらにしろ、今、二人と同じ空間にいることがとてつもなく気まずいことは確かなわけで。
 誰か……そう、ラカルさん。どこに行ったんだろう。早く戻ってこないかな。この二人の仲を取り持ってくれないかな。

「どうした」
 イノの祈るような願いは通じたが、その声はラカルのものではなかった。
 声の主を捜すと、どうやらキャナの隣に立っているようで。
「ううん、なんでも。ラカル、居ないみたいよん」
「……そうか。ただ、俺が思うに。今のはおまえの方が悪いぞ、キャナ」
 言われて、キャナは風船がしぼんでしまったようにしゅんとなった。
 そんな彼女の頭に、大きな大きな手のひらがぽんと置かれた。
 低いしわがれた声。聞こえ方によっては、獣の唸り声にも近い気がした。それにあんなにも大きな手のひら。イノは目をまんまるくして凝視してしまった。
 キャナが丁度、この部屋と廊下の狭間に立っているうえ、扉も中途半端にしか開かれていないので、イノはその声の持ち主の姿を見ることが出来なかった。
 ただ、麻っぽい服の端がちらと見える。
「仲良くしろ。俺は先に部屋へ戻る」
 言い置いてその誰かは居なくなった。
 キャナが再びこちらに顔を向き直り、リンロットに向かって軽く頭を下げてきた。
「……ごめん。言い過ぎたわねん」
 リンロットは首をふりふりとした。またいつもの笑顔をたずさえて。
「別に気にしてないよ。ボクも大声出してごめんね。えーと……そう、イノ」
 突然名前を呼ばれたものだから、一瞬自分のことだと気がつかなかった。
 沈黙していると二人の視線を身体に感じ、慌ててイノは「はいっ」と返事をした。リンロットがさらに微笑む。
「紹介が遅れてごめんね。彼女はキャナっていうんだ。キャナ、この子はイノ。あのイド・リックの孫娘だよ」

 イド・リックの名が出た途端、キャナはリンロット同様目を見開いて驚いた。
 両頬に手を添え、魅惑的な唇が縦長に開かれる。
「ほんとに!? あのイド・リックの!?」
 こういう反応、悪くないな。なんてイノがほんのちょっぴり優越感に浸っていると。
「あんの、くそじじいの!?」
 キャナの口からとんでもない言葉が飛び出して、イノはぎょっと驚いた。くそじじい?
「キャナ! なんてこと言うんだよ!」
 慌てたようにリンロットが席から腰を浮かす。
 まだ扉のところに立っていたキャナは、だってと口を尖らしながらイノの傍らまで歩み寄ってきた。
「イドってばほんっと。口うるさいし、説教くさいし。ちょっとでも失敗したら、自分だったらあんな失敗しない、なんて言い出すのよん。大体何にでも首つっこんでさ、あんたもそう思うでしょん?」
 明らかに同意を求めるかのような口ぶりで、キャナはイノの肩へと手を伸ばしてきた。
 イノは首を大きく左右に振って否定する。
「そ、そんなことないです! イドじいちゃんはとっても優しかったんです!」
 キャナの意地悪そうに歪んだ笑みは、イノの言葉で一瞬にして拭われた。
 呆けたように口が半開きになり、掴むところをなくした手のひらは宙に浮んだままで。
「……なんで、過去形なの」
 先ほどまでの快活な声は一変し、その言葉は小さく震え。
 イノが言葉を探していると、キャナは振り返ってリンロットを見た。リンロットは何も言わず、ただ静かに目を閉じた。

「イド、死んだの?」

 こくり。
 唇を噛み締めながら、イノは小さく頷いた。胸の辺りで自身の栗色の髪が揺れる。
 と。何やら声を押し殺すかのような嗚咽が聞こえてきた。
 不思議に思って顔を上げると、すぐ傍に立つキャナが大粒の涙をぼろぼろとこぼしていて。
 右手の甲を口に当て、溢れ出す涙を拭うことなく肩を震わせていた。

 イノの胸がぎゅっと鳴いた。



目次 前へ 次へ
スポンサーサイト

カテゴリ: 長編

[edit]

TB: 0    CM: 2   

コメント

No title

初めまして○┓
訪問者リストからお邪魔させていただいている、
きのみと申します。訪問ありがとうございました(^^*)

夢術師の夢、ここまでですが読ませていただきましたÜ
私の好きな物語の設定&書き方だったのでとても楽しめました!!
イノのキャラが個人的には好きです♫可愛いですね(笑)

また読みに来たいなと勝手ながら思っております(`・ω・)ゞ
それでは失礼しました=3

きのみ #- | URL【2011/06/26 21:02】edit

>きのみさん♪

初めまして!足跡残しながら、無言で去ってしまったことお詫びします><

長編、読んでいただけてるなんて!それだけでも嬉しいのに、コメントまでいただけて小躍りするほど喜んでおります^^(笑)ありがとうございます♪
しかもしかも、好きな設定だなんて!書き方だなんて!楽しかっただなんて!!嬉しすぎる~~><♪
ありがとうございます☆調子乗っちゃいますよ! ←

またいつでも来てください~^^
私は…お詫びもかねてそちらに伺いますね!すみません!><

chacha #- | URL【2011/06/27 18:48】edit

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://chachanoblog.blog59.fc2.com/tb.php/46-b51eae8e
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。