忘れはしない時と唄

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【小説】一握りの距離 ⑤ 

ボクは気付いたんだ。

君はいつも、笑っていたよね。




 翌日。
 私は和也と姉を会わせるべく、二人で和也の家へと足を運んだ。
 姉に和也のことや、遊んだ内容を話して聞かせながら歩いていると、向かいから見慣れた姿が近づいてきた。
 ふらふらと頼りない足取りは、出会った頃のように。だが、治りかけていた傷とは別の傷が、和也の身体に新しく刻み込まれていた。
「何があったんだよ!」
 私は声を張り上げながら和也に駆け寄った。と同時に、遠くからこちらを見つめていた数人の子供たち――おそらく私と同世代だろう――が踵を返して走り去るのが見えた。
 あいつらだ。
 あいつらにやられたんだ。
 和也から詳しく問いたださなくとも、容易に理解出来た。
 私の背後に、一足遅れで姉の気配を感じた。
 和也は、大丈夫だよと小さく呟くと、握り締めた左手を広げて見せた。
「見て、ほら。今日は木の精霊を捕まえたんだ。初めて捕まえたから、亘にも見せたかったんだ」
 ざり、と後ろに立つ姉の足音が聞こえた。

「あんな変な子と一緒にいたら、亘までおかしくなっちゃうわ!」
 私の腕を強引に引っ張り一緒に家に戻ると、すぐさま姉は両親に一部始終を話して聞かせた。両親の表情は、雲が落とした影のように暗い。
「ちょっと変わってはいるんだけどね、真奈ちゃん。和也くんはとってもいい子なんだよ」
 祖母が和也の言動をかばう。
「亘ちゃんも、和也くんとそりゃあ楽しそうに遊んでいたよ。友達になったんだもんねぇ」
 そう言いながら私の顔を、気持ちを伺った。
 細められた瞳の奥に、鋭い光が輝いている。何故だか責められているようで、ぞわりと毛が逆立った。
「でも、私あんなこと言う子、気持ち悪い! だからいじめられてんじゃないの?」
「真奈ちゃん!」
 感情が高ぶった姉を、祖母が怒気を込めて制した。

 私は、姉の言葉と両親の表情、そして、はにかんだ和也の笑顔が浮かんでは消え、様々な思考と感情がぐちゃぐちゃになって、頭の中が混乱していた。

 結局、「明日の昼前、みんなで家に帰ろう」と言う父の一言で話は終わった。




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