忘れはしない時と唄

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【小説】一握りの距離 ① 

忙しい日々の、ちょっとした逃避行。

思い出という名の、記憶のアルバムはあせることなく――




 午後十二時十五分。
 私は昼食を、いつも会社の傍にある公園と決めている。

 夏の日差しが強い日には、三十路を向かえた私としてはやはり身体に堪える為、クーラーの効きすぎたオフィスで昼食を済ましているが。
 今日みたいな曇り空で、比較的風も涼しい時にはなるべく外へ出るようにしていた。
 一日中デスクワークの私にとっては、この昼休みは外界へと脱出の出来る貴重な時間。
 今日に限っていつもの特等席――この公園内で唯一、日陰となるベンチ――は先客で埋まっていた為、仕方なく他のベンチに移動した。
 そこは子供たちが戯れている砂場を見渡すことが出来る。
 私は腰を下ろすと同時にネクタイに指をかけ、無造作に緩めると、首輪を外した飼い犬のように妙な開放感を味わった。生ぬるいが悪くない一陣の風に、汗ばんだ身体が冷やされていく。

 コンビニで購入した弁当をさっさと食べ終えると、私はベンチの背もたれに身を預けるように空を仰いだ。
 黒く厚い雲の一塊が、上空で泳ぐように流れていく。風が強いのだろう。
 あの風は、どこから生まれ、どこからやってきたのだろうか。
 あの風にも感情や思考があり、自らの意思をもって空を駆けていくのだろうか。
 そんなことを考えている自分に気づき、ふと、小さく笑った。
 たまに摩訶不思議なことを考えるようになったのも、こうして一人ぼんやり空を眺めるようになったのも。
 全て、「あいつ」のせいだと私は知っている。


 小学二年の夏休み、一度だけ田舎の祖父母の家へ一人で訪ねたことがある。両親は、突然体調を崩した私の三つ上の姉を看病する為、家に残った。
 本来私も一緒にそこに居るべきだったのだろうが、子供というのは時に我を通したくなるものだ。祖父母の家にどうしても行くと強情を張って、両親をうんと困らせたのを覚えている。
 今思えば、姉ばかりを構っていた両親が気に食わなかったのかもしれない。何か困らせるようなことを言えば、行動を起こせば、両親は私をも構ってくれるに違いないと……。幼いながらに、何とも可愛げのない単純な思考だ。
 困り果てた両親は、私の思い描いた想像とは全く異なった行動に出た。
「じゃあ亘、一人で行ってみる? もう二年生だし、春休みにみんなで一緒に電車で行ったから、わかるよね?」
 その言葉を言ったが早いか、母はその場で祖父母へ連絡を取り、「おじいちゃん達もそうしたらって」と言ってにこりと微笑んでみせた。
 もう二年生だし。
 春休みに行ったからわかるよね。
 今更「行きたくない」とは言えなかった。それを言えば、自分が「敗者」だと認めてしまうことになる。子供らしく、素直になればいいものを……
 可愛げのない私は、結局母の名案をしぶしぶ受け入れたのだった。



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